7月12日（日）午前11時、彩の国すこやかプラザ2階研修室において埼玉県摂食嚥下研究会の理事会および総会が行われた。20年度事業報告・決算報告、21年度事業計画・予算案、役員の選任に関する件、が原案通り承認された。
午後1時から、セミナーホールにおいて第9回講演会が多くの職種から280名の参加を得て開催された。講師は横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科助教の若林秀隆先生、テーマは「症例から考える摂食・嚥下機能の評価と胃瘻の適応」であった。まず始めに症例の提示があり、それに対して7つの問題を設けてそれぞれの項目を講義した後、受講者同士でディスカッションさせて理解を深めるという受講者参加型の講演会であった。講演の所々に、FD(Faculty Develop-ment 指導者養成に必要な考え方)を散りばめ、勉強の仕方だけでなく人生の在り方にまで及ぶ示唆に富んだお話であった。

症例から考える摂食・嚥下機能の評価と胃瘻の適応
横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科助教
若林秀隆先生

（症例）

元来元気であった92歳男性。自宅で転倒し右大腿骨頚部骨折受傷。人工骨頭置換術後に誤嚥性肺炎となりしばらく禁食。その後、リハビリを行ったが車椅子移乗レベルまでしか改善せず自宅退院は困難で老健に入所。入所後さらに摂食嚥下機能が低下。大腿部と下腿は骨が容易に触れるようになり、仙骨部に褥瘡を認めた。今のうちに何かできることはないのだろうか。急いで胃瘻を造設している病院に相談しておいた方が良いのだろうか。胃瘻を造設してしまったら、もう口から食べられないのだろうか。

（嚥下機能の評価方法のポイント）

1. 低栄養と脱水の有無を評価する
   嚥下機能を評価する第一歩は栄養状態を把握することで、すべての医療者に求められる力である。栄養状態は主に、身体計測と検査データの２種類で評価する。
2. ５つの期に分けて評価する
   認知期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期を理解して、それぞれの期ごとに評価する。高齢者は意欲低下や抑うつなどがあるので、認知期に問題があると対処が難しい場合が多い。咽頭期では脳梗塞などの脳血管疾患で障害されるが、廃用症候群など筋委縮が問題となることも多い。筋委縮による嚥下障害への対応（筋トレなど）をもっと的確に行う必要がある。
3. 数字で評価する
   摂食・嚥下障害は藤島のグレード（１〜10）を用いると、現時点での評価と今後の目標（ステップアップ）が明確になりやすい。
4. スクリーニングテストで評価する
   スクリーニングテストには�@咽頭期の摂食・嚥下障害を否定する、�A直接訓練開始を判断する、という２つの意義があるので、もっと意識して取り組んでほしい。フードテストや水飲みテストに頚部聴診法とパルスオキシメーターを組み合わせることで、効果的なスクリーニングが可能となる。

（胃瘻の適応）

これらの評価を基に医学的適応（恩恵・無害）を判断し、患者の意向（自己決定）、ＱＯＬ（幸福追及）、周囲の状況（公平と効用）と合わせて、胃瘻の適応を考えるべきである。ＱＯＬの壁は楽しみとしての経口摂取ができるかどうかという所にあり、食べるために一時的に胃瘻を造設する考え方も必要である。「経口摂取」にはこだわるが、「経口摂取のみ」にはこだわらない。

こだわるべきは栄養
〜口から楽しむ胃瘻から補う〜

埼玉県摂食嚥下研究会第８回講演会は、平成21年３月１日（日）に埼玉県県民健康センターにて13時〜16時まで開催されました。
講演会のテーマを「こだわるべきは栄養〜口から楽しむ胃瘻から補う〜」として二つの講演が行われました。
講演�Tの演題は、「ＰＥＧと経腸栄養の常識・非常識」で、講師は国際医療福祉大学外科教授・上席部長　鈴木裕先生、講演�Uの演題は「摂食機能からみた栄養支援」で、講師は日本歯科大学附属病院准教授　口腔介護・リハビリテーションセンター長　菊谷武先生です。
当日は医師、歯科医師、薬剤師、看護師、歯科衛生士、栄養士、管理栄養士、ケアマネ等の介護職、作業療法士・言語聴覚士・理学療法士、養護学校教員等多数の職種３３３名が熱心に受講されました。

講演�T
ＰＥＧと経腸栄養の常識・非常識
国際医療福祉大学外科教授・
上席部長
鈴木 裕 先生

始めに基本的な事を踏まえる為胃瘻についてビデオにて紹介があった。その内容は、�@胃瘻とは、�Aメリット、�B適応症、�C方法、�D合併症でした。
その後口演では胃瘻はリハビリテーションとして考え食べられない人に口から無理矢理食べさせるのでなく、また食べられないので無理矢理胃瘻にしてしまおうではなく本人、家族に負担にならないようにするため将来につながるために行う。再度お口から食べられるように支援する為の方法と考える。胃瘻は簡便で開腹手術を行う必要がなく使用の仕方の理論をキチンとすればよりよい方法である。使用しなくなれば簡単にとじることも可能です。使用中に起こる創部感染予防、胃瘻カテーテル交換時の腹腔内誤入、と誤入しないための新しい交換器材の開発→インジゴカルミン液を使用した胃内留置確認法（sky-blue法）、エビデンスはまだないが経腸栄養剤の半固形化（とろみ）のコンセプトはよい。

講演�U
摂食機能からみた栄養支援
日本歯科大学附属病院准教授
口腔介護・リハビリテーションセンター長
菊谷 武 先生

菊谷武先生は１ヶ月に１回、埼玉県口腔保健センターに診療に来られている。
70代女性、脳卒中の後遺症でワレンベルク症候群の患者さんが１ヶ月で退院したが胃瘻になり、センターを訪れ受診した症例を紹介した。症例は、大学病院での入院し訓練を経て、声に力がでて声に変化が現れる。その後口腔保健センターで訓練を続け、経口摂取に至った経過について、実際のＶＥ画像などを使用し紹介した。
その後、咀嚼とは何かについて解説し、咀嚼には、舌、頬の運動が重要であると述べた。咀嚼障害について、器質性咀嚼障害、運動障害性咀嚼障害の概念を紹介し、咀嚼運動を適正に観察することの重要性を述べた。また、摂食・嚥下障害患者へのアプローチとして、代償的な方法である食環境の整備（食形態の調整、食べ方の調整、姿勢の指導）が重要であるとした。このような努力をしたことにより、施設の肺炎発症者は３割減少した事例を紹介した。「きっと防げる肺炎、窒息はある」とのことで講演は終了した。