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【平成25年の活動内容】

埼玉県摂食嚥下研究会「第8回症例検討会」報告
平成25年11月24日
埼玉県摂食嚥下研究会「第18回講演会」報告
平成25年7月28日
埼玉県摂食嚥下研究会「第9回理事会・総会」報告
平成25年7月28日
埼玉県摂食嚥下研究会「第17回講演会」報告
平成25年2月17日

     
埼玉県摂食嚥下研究会「第8回症例検討会」報告
平成25年11月24日

平成25年11月24日(日)、埼玉県摂食嚥下研究会 第8回症例検討会が開催され、医師・歯科医師をはじめ看護師、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士や介護施設職員等106名が参加した。

はじめに、前回講演会の参加者から寄せられた質問のうち、2つの事例について症例検討が行われ、その後コメンテーター及び参加者によるディスカッションが行われた。
続いて後半は、講師に社会福祉法人名栗園 高齢者福祉施設やしお苑 河口真里管理栄養士を迎え、「食べること」を支える、施設での取り組み~やしお苑の食事ケアと排泄ケアについて~と題し講演をいただいた。
会場外のホワイエでは、関連業者4社による口腔ケアグッズや嚥下食などの展示も行われ、今回も大盛況のうちに閉会となった。

症例検討

症例検討会の前半は、前回の講演会参加者から寄せられた質問のうち、2つの事例について本研究会の大渡専務理事が座長を務め症例検討が行われた。

まず事例1として、「地域密着型特養ひだまりの庭むさしの」新井幸子看護師からの食事形態に関する質問(79歳 男性 現在の状況:認知症があり、昼夜逆転気味になり、食事の時のみ覚醒している状況。食事中のむせが以前より多くなってきている。現在の悩みごと:食事形態を考える際に、常食→きざみ→ミキサーというように形態を落とすかどうか。飲み込み、むせの有無等以外にどのような点を観察したらよいのか迷う時がある。指標を知りたい。)

事例2として、「鶴ヶ島地域包括支援センターペンギン」山﨑惠子看護師からの開口に関する質問(困っている、悩んでいること:認知症等の方で、開口してくれなかったり、口の中に食べ物が入ってもなかなか咀嚼運動が始まらないために食事に時間がかかってしまう。一対一で一人だけに時間をかけるのが難しく、結局途中でやめざるを得なくなる。時間をかけても本人が疲れて、最後にムセ込み、誤嚥してしまうこともある。開口を促す刺激のポイントや咀嚼運動や嚥下運動を誘発するコツなどがあったら教えてほしい。また介助時の1回量に問題ありか。誤嚥後の吸引を考え、ペースト食にしているのが問題なのか。咀嚼から嚥下運動に進めるポイントはあるのか。)

事例1に対し、医師の立場から本研究会の大前由紀雄理事、言語聴覚士の立場から本研究会の清水充子理事によるレクチャーが行なわれた。
◎大前由紀雄理事は、どのように嚥下調整食を選択するかについて、摂食状況のレベルは同じでも、嚥下障害の病態は同じでない。症例によって障害の向いている3つのベクトル方向(咀嚼力すなわち噛み砕き食塊としてまとめる能力。嚥下反射の惹起性すなわちタイミングよく呑み込めるかどうか。咽頭クリアランスすなわち残留なく食道に送りこめるかどうか)を睨んだ食形態を選択しないとうまく行かない。3つのベクトル方向を考えながら嚥下調整食を考えていただきたいと述べた。(図1参照)
日本摂食・嚥下リハ学会学会分類(2013)の「嚥下調整食の選択(ピラミッド)」が参考になるので是非日本摂食・嚥下リハ学会HP(http://www.jsdr.or.jp/)を参照されたい。
◎清水充子理事は、特に認知症に対する安全な摂食のために大切なこととして、覚醒、意識がしっかりしていること。食事をすることが意識でき、食べるときは目が覚めていること。呼吸器関係の状況がよいこと。姿勢の安定がよいこと(良い条件を設定する)。献立の形態が、機能に合っていること。一口の量や食べるペースがコントロールできること。誤嚥しかけても、咳でしっかり出せること。を挙げ、食前の準備 として、心身の状態を整えること。
すなわち、口腔内の衛生覚醒の確認、向上、食事を始める意識付け、安全姿勢をとること(うがい・口腔清拭・食前体操・注意事項の確認・セッティングの確認)で、基本的に大切なことは『姿勢の工夫(ベストポジションを見つける)』と説明した。また認知症への具体的な対応として、食物の認知障害、注意が集中できない、咽頭への送り込みの運動が開始できない、どのように飲み込んでよいかわからない、うつ傾向で食べたくない、拒食、脱抑制、自発性の低下、等に対し、「嚥下障害ポケットマニュアル第3版 医歯薬出版2011を引用して説明した。

続いて事例2に対し、歯科医師の立場から本研究会の中里義博理事、歯科衛生士の立場から埼玉県歯科衛生士会の大久保喜惠子専務理事によるレクチャーが行われた。
◎中里義博理事は、「開口困難症例への対応」として、脱感作の仕方(手順)、Kポイント刺激法(図2参照)について詳しく説明し、更に加湿と保湿の重要性に触れ、種々の開口器についても紹介した。患者は術者がいかに意識がないと感じていても、どんな時も行為自体について理解しているはず。真心を持って尽くしていけば、必ずや表情に表れてくる。手のぬくもりや足先の温度、開いていれば眼の動きやまばたきすらも読み取れるはず。人が人であることを忘れないこと、と結んだ。
◎大久保喜惠子歯科衛生士は、認知機能低下による口を開かないことへの対応策として、
▽「食事を認識できない」については、捕食の促しや手指(手づかみ)、食べ物、臭覚、味覚からの感覚入力や手にスプーンを持たせて口へ運ばせ、これまでの経験を思い出させる。
▽「原始反射の出現」については、噛むタイミングでの捕食介助や食具の工夫である。
▽口はよく動いているのに、いつまでも口の中に残っていることへの対策としての、「咽頭への移送不全」については、流動性のある移送が容易な食品の提供や、一口量の考慮や嚥下運動を確認してから次の介助を行うことや、嚥下反射惹起のための訓練(アイスマッサージ、歯肉マッサージ)である。
▽溜め込みへの対策としての、「食べ物が認識できない」については、甘いものや辛いものなど、明確な味を持った食品への変更や、嚥下の促しや、手指食べや、臭覚、味覚からの感覚入力と説明した。嚥下訓練法について、喉のアイスマッサージ、息こらえ嚥下、頭部挙上訓練、裏声発声訓練法、メンデルソン手技方法(喉頭〈甲状軟骨〉に手を当てゴクンと空嚥下を行い、最も挙上した位置で息を止めて保持)、嚥下体操を説明した。
また、口腔ケアに利用している保湿剤を紹介した。最後に、歯科衛生士が摂食に関わるキーパーソンになることを目指していると結んだ。

最後に、コメンテーター(医師の立場から大前本会理事、歯科医師の立場から中里本会理事、言語聴覚士の立場から清水本会理事、看護師の立場から中島悦子本会理事、および埼玉県立循環器呼吸器病センター笠原希美摂食・嚥下障害看護認定看護師、歯科衛生士の立場から県衛生士会大久保専務理事、後半の講演会講師の社会福祉法人名栗園高齢者福祉施設やしお苑 河口真里管理栄養士)による、ディスカッションが行われた。
◎笠原希美看護師より、「認知症の方々には、これというきっかけがあればそこから進められるということを実感している。いろいろ試みてみることが肝要である。」
◎中島悦子本会理事より、「認知症の方々への訪問看護において、チーム内での摂食状況、嚥下状況の情報伝達を密に行い、情報の共有を図るべきである。またコミュニケーションの重要性を痛感している。」
◎河口真里管理栄養士より、「栄養士として、調整食をいつも同じ形態、状況で提供する事に力を注いでいる。この後の私の講演内容を自分の施設と比べて、参考になる点は施設の栄養士に伝えて試みていただきたい。」
◎大前本会理事より、「連携している各職種間で、それに関われる時間的な余裕に制約がある。そのために大事なことは家族を取りこむことで、状況、情報を家族に伝え輪を広げていきたい。」
◎ 会場から、「在宅に関わっているが、多職種連携として歯科衛生士と直接話す機会が少ない」との意見が寄せられた。

講演  「食べること」を支える、施設での取り組み
~やしお苑の食事ケアと排泄ケアについて~
講師  社会福祉法人名栗園高齢者福祉施設やしお苑
管理栄養士 河口真里先生

後半の講演会は、講師を社会福祉法人名栗園高齢者福祉施設やしお苑の河口真里管理栄養士にお願いした。演題は「食べること」を支える、施設での取り組み~やしお苑の食事ケアと排泄ケアについて~である。

やしお苑は入所者数80名で介護度は平均4・01、平均年齢が82・6歳、男女比は1:3で圧倒的に女性が多く、食事形態は経管栄養3名を除き74名が経口摂取である。食事のケアは他職種で分担し介護、医務、栄養の分野で協力している。栄養チームの関わりは摂食嚥下障害・咀嚼困難な方々への咀嚼・嚥下調整食の提供、よりよい食形態の工夫を利用者や介助者から聞き取って改善、自助食器の使用や栄養補助食品で不足分を補ったりしている。
毎月の行事で出されるお弁当は常食だけでなく摂食嚥下障害のある方にも楽しんでいただけるよう工夫している。入所者の食べ方の観察をしながら、おいしく安全に食べられる料理作りを行っている。単に食事を提供するだけでなく、体重や全身状態を観察し、低栄養状態に陥らないように栄養マネジメントに取り組んでいる。かむ力、飲み込む力の低下した方には、食べやすく(咀嚼嚥下)消化しやすい形態にしたやわらか食を提供している。やわらか食とは料理(食材)をミキサーにかけゲル化剤で固めたもので、舌と上あごでつぶせる固さで、のみこみ易いなめらかさを持った食事である。
そのいくつかの調理例をスライドで提示したが、食べるということの基本が、摂食嚥下の5期にあると考えて実際に現場職員へのアンケートなどを基にやわらか食を完成した。その概念は、舌でつぶせ、まとまりがあって、見た目に良く、飲み込みやすいという条件が備わっていること。そして誰がどのような形態で食べるかは介護職が中心に決めている。主食はごはん・粥・粥ゼリー・ミキサー、おかずは常食・一口大・きざみ食・やわらか食から選んでもらう。介護食への取り組みとして開園時のとろみ調整剤やゼラチン・寒天などの使用から何度かの改善を経て平成21年からはやわらか食に取り組み始めた。
機会あるごとに出来上がった料理を職員に試食してもらい、原料が同じ料理を食形態を変えることで咀嚼しやすく飲み込みやすい物に変えて行った。またどうしても不足がちな栄養に関しては市販の補助食品の活用が検討された。一方で食事介助の際に使いやすい食器の改善や食器の色や形、配置までも検討し十分な成果を上げることができた。

【食べることと出すこと】

排泄の関連性を検討しそれまで薬剤による排便コントロールによって便秘と下痢を繰り返してきたことを反省し、施設内に「排泄ケアを考える会」を立ち上げて取り組むことになった。職員間の共通の認識を高めるために、ブリストル排便スケールという表を採用して、これにより入所者の排泄状況を把握することができた。
その結果、下剤を中止し食物繊維を水分とともに取り入れることにより3年間で薬剤の種類によっては0かまたは多くのケースで使用頻度が激減した。そしてそれまで多かった水様便や泥状便が10%になり、多くが普通の便になった。
ここでの栄養チームの関わりは水分摂取時に摂取してもらう食物繊維を選定、一人一人の水分目安量の計算、おいしく安全で食べやすい食事の提供、摂食嚥下評価に適した食事を提供することである。また、嚥下機能の低下した方にゼラチンゼリーや寒天ゼリーを提供し、水分を摂取していただいている。おいしい食事とは高齢者の低下している味覚に対応するように旨みを加えたりスパイスを用いた食事。色どりが良く、食感が良く、見た目が美味しそうに盛り付けられた食事、ということになる。一方で食べやすい食事とは「かむ・飲み込むことが容易な方」では歯ざわりも美味しさのうちで、「かむ力が低下した方」では細くするのではなくやわらかくする。「飲み込みが低下した方」では食べ物にまとまりがあり、滑りやすいことが条件になる。最後まで利用者に口から召し上がっていただくために、引き続き適切な食支援を行っていきたいと願っている。
今後は地域の施設・病院間でも食の共通言語を持ちたいと考えている。


埼玉県摂食嚥下研究会「第18回講演会」報告
平成25年7月28日
講演Ⅰ  「早期経口摂取開始の成果とアプローチの実際」
講師  東名厚木病院 摂食嚥下療法部部長、
NPO法人「口から食べる幸せを守る会」理事長、看護師
小山 珠美先生

小山先生は、国立病院機構熊本医療センター付属看護学校、神奈川県立保健福祉大学実践教育センター教員養成課程看護教員コース、放送大学大学院文化科学研究科環境システム科学群を卒業後、現在摂食嚥下療法部部長として社会医療法人社団三思会東名厚木病院に勤務されている。
講演は、「早期経口摂取開始の成果とアプローチの実際」と題して行われた。
まず、摂食・嚥下とは、「食べたい人にはなんとか口から食べられるよう、食べ続けられるように」との観点から経験を含めて講演した。
看護師の職務とは、患者の自然治癒力を如何に促進できるかであり、スピード性を持って安全に結果を出すことを絶えず考えている。食べさせない看護は存在しない。食べさせることが看護の真髄と考えている。しかし代替栄養(非経口栄養)の発達で食べさせなくなってきた。人間にとって「口から食べる(食事)」ことは、人が人として幸せに生きるための大事な生命の根幹であり、我々は、食べる楽しみ、食べる喜び、食べる幸せ、美味しい笑顔、を患者と共有したいために頑張れる。人としての幸せに生きる尊厳の源を自分自身の中に持っていないと、知識や技術だけではこの領域はやっていけない。
脳神経、自律神経系、身体活動などのバランス調整等が食べることによってうまくコントロールされているため、専門家としては、食べることの意味を心身両面から細かい部分で考えていかなければならない。

《症例の紹介》
70歳代女性、左視床部出血、人工呼吸器管理、1週間後に気管切開、意識障害重度、失語症、開眼困難。食べることは一つの切り口であり、疾病、心身機能の改善等両面からのアプローチがなければ良くならない。経口摂取訓練を発症3週目から開始して、5週目にはゼリー食となった。発症7週目には一部箸を使用しての食事となり回復期リハ病院へ転院となった。意識レベルが十分ではない時期からリスク管理下による経口摂取を開始することで、気管カニューレも抜くことができた。現在外来で言語訓練を継続しているそうである。
小山先生は「我々はリスクを回避するだけでなく、リスクを減らし、リスクに立ち向かうスキルを自分自身が身につけることが肝要である。患者さんは、見通しのつかない我慢(経口摂取禁止)を強いられることにより心身のストレスを高め、廃用症候群は悪化し、食べる機能を奪い取られることにもなりかねない。食べるチャンスを与えるのも医療者、食べるチャンスを奪うのも医療者である」と長期絶食を強いることへの警鐘を鳴らす。
急性期医療の要素は、キュア、ケア、リハビリテーション、ディスチャージ、QOLであり、患者は生命を助けて元の生活者に早く戻してという願いをもって入院治療を受けている。そのためにも、この急性期治療を乗り越えたら自分と同じ生活者だという認識をもつことが肝要である。特に、治療に伴うチューブ管理そのものが廃用症候群を作り易く、経口摂取開始の遅れは生活機能低下を招く。リスク管理(低栄養・脱水 誤嚥性肺炎 廃用症候群)を行いながら、早期経口摂取のステップアップを行う両輪を考えていかなければならない。
東名厚木病院での取り組みと実績の紹介として、「脳卒中急性期から始める早期経口摂取獲得を目指した摂食・嚥下リハビリテーションプログラムの効果」(2012,4 日本摂食嚥下リハ学会誌掲載)について説明があった。また、先般関わったという症例の紹介があった。70歳代男性、胃切除後、誤嚥性肺炎を繰り返し人工呼吸器管理となり、2カ月間経口摂取なし。ICUより、「昨日スピーチカニューレに変更となったので、経口摂取のスタートを願いたい」との依頼があった。全身状態と嚥下のスクリーニング評価結果より、摂食・嚥下機能が良いと判断して、昼食にはゼリーに加えて、旬の桃をフレッシュジュースにして食欲をそそるような環境を作ったそうである。本人の笑顔だけでなく、同席した周囲のスタッフや家族から感嘆の声が響いた場面は、参加者にも感動が伝わってきた。
口から食べることを積極的に進めていくためには、生活者としての観点から、実践的スキル、多職種との連携、リーダーシップ、コミュニケーションスキル、そして情熱と行動が必要である。行動に移さねば何も変わらない。是非皆さんも明日から行動に移していただきたいとのメッセージだった。

7月12日にNHK NEWS WATCH9において、「自分の口で食べたい!諦めないリハビリ」と題して、東名厚木病院における摂食嚥下療法部の取り組み、および「口から食べることを支援するNPO設立」が放映された。
『リーダーの看護師、小山珠美さんです。
これまで多くの患者が、チューブで栄養をとる処置のあと、それに頼りっきりとなり、食べる力を失っていった姿を見てきました。チューブに頼るやり方を変えられないか。小山さんは、再び口から食べられるようにするためのリハビリを手探りで始めたといいます。
「食べなくても生きていける、食べなくても栄養が施されると、食べさせなくなってしまった。むしろ食べたいと願っていても、食べられる力があると思っていても、食べることのリスクを並べ立てるような医療者が増えてきた。そこに問題を感じる。」
口から食べられるようにするために大切なのは、入院後すぐにリハビリを始めること。「食べる力は、どんどん失われていっているから、リハビリをするにしても、アプローチをするにしても、もっと時間がかかってしまう。急性期からやることが、患者の健康を回復する力を促進する原動力になる」と。
井上キャスター
「小山さんは、医療や福祉の関係者と、口から食べることを支援するNPOを設立していて、明日(7月13日)に横浜で、関係者が一堂に集まる初めての全国大会が開かれます。」
大越キャスター
「病院やリハビリ施設で働く500人近くの医師や看護師などが参加するということですが、口からおいしく食べるというのは、元気になる源ですよね。 そのための取り組みの報告、あるいは実技の指導が行われるということです。」』

小山先生の少々辛口の講演の迫力に参加者は圧倒された。そして誰もが小山先生の技術や知識もさることながら、その陰にある医療関係者として求められる温かさ、優しさに心を打たれた。参加者は多くのお土産を持ち帰り、明日からのそれぞれの業務に役立たせている事と確信している。

講演Ⅱ  「要介護高齢者が口から食べ続けられるための食事介助技術と地域連携」
講師  東名厚木病院 摂食嚥下療法部主任 看護師
芳村 直美 先生

後半の講演は、東名厚木病院の摂食嚥下療法部主任の看護師、芳村直美先生による「要介護高齢者が口から食べ続けるための食事介助技術と地域連携」と言う演題であった。
声にメリハリがあり、かつ端的で明瞭なお話しぶりに、途中退出する方が皆無、緊張した素晴らしい講義だった。最初に強調されたのは、口から食べ続けることを支援するためには3つの要件があること。それを食事介助の視点で言うならば、①どうやって食べさせるかと言う判断、②食べさせてあげるという信念、③それにどう取り組んでいくかという姿勢であるとのことであった。食事介助のポイントを環境の整備、口腔内の清潔と食べる準備、食べやすい体位や姿勢保持、呼吸、食事内容や介助の際の一口量、食べる意欲を起こさせる工夫などの点で実例をビデオ放映しながらその都度良い点や悪い点、改善点などを指摘した。
我々が忘れがちなことは、在宅などでは十分に姿勢保持ができていないこと、それを食べられる姿勢までタオルやクッションなどを組み合わせることで安全な体位が獲得できることが分かった。食物を口に運ぶ際の方向性や高さ、一口量はどれくらいか、これまでの食事介助が術者中心であったが、それを患者の目線:視線で捉えることで安心安全そして効率性が高い介助ができる。PPTでは時々動画でスプーンをどこからどうやって口まで持っていくといいのか、テーブルの位置ひじや稼働できる範囲がどこにあるか、患者は視線をどこに向け介助者はそれをどう判断するかなど興味深いものであった。
全ての症例で寝たきり重度の患者さんが入院期間14日間と言う期間内に経口摂取ができるようになっていく姿を目にすると感動を覚えた。小山部長に薫銘を受けたであろう芳村先生の講演は次第にヒートアップしていった。

スライド量の多さ、資料内容の濃さはこの2人の講演者を一度きりで終わらせるにはもったいないと感じた。今後機会を作りパート2をやっていただけるようお願いしたい。
本題である在宅へのバトンタッチではまだまだ受け入れてくれるところが少ないこと、また先日放映されたNHKの東名厚木病院で取り組んでいる口から食べさせるという内容の番組も上映された。日本全国から食べさせたい、食べられないけれど、どうしたらいいのか、どこで受診できるのかなど90件もの問い合わせがあったそうで、埼玉県からの問い合わせも30件近くあったそうだ。いかに食べることで悩んでいるのか、うかがわれるとのこと。食支援を地域でつなぐには1つの病院や施設で終わらない、つまり地域密着型のバリアフリーを進めていくことが今後の食支援継続に不可欠である。
そのためにNPO法人口から食べる幸せを守る会を立ち上げたとのことで、この支援の対象者はやはり70~80歳代が最も多いそうだ。小山先生からはぜひ埼玉県でもこのような方々の希望にこたえられるような診療所を、ネットワークで参加してほしいという要望もあった。口から食べられるようにするには単なる医科歯科連携ではなく多職種が全員参加する医療連携であってほしいとの意見もあった。
なお、当日272名の参加者内訳は、歯科衛生士68名、看護師50名、歯科医師39名、管理栄養士35名、栄養士43名、言語聴覚士・作業療法士・理学療法士32名、ケアマネなど43名、医師4名、薬剤師1名だった。


埼玉県摂食嚥下研究会「第9回理事会・総会」報告
平成25年7月28日

埼玉県摂食嚥下研究会第9回理事会及び総会は平成25年7月28日(日)午前10時30分より彩の国すこやかプラザ2階研修室で行われた。
総会では議長に藤野理事が、副議長に清水充子理事が選出され、金井会長の挨拶の後、役員の選任、平成24年度の事業報告及び決算、平成25年度の事業計画及び予算の計5議案が審議され、すべて上程し、原案どおり可決された。役員の選出の件では看護協会の熊木孝子会長、埼玉県介護支援専門員協会の野呂牧人理事長、埼玉県歯科医師会地域保健部の出浦惠子部員が、新たに理事に承認された。


埼玉県摂食嚥下研究会「第17回講演会」報告
平成252月17日

平成25年2月17日(日)、13時~16時、彩の国すこやかプラザ2階セミナーホールにおいて埼玉県摂食嚥下研究会 第17回講演会が開催された。
当会の理事、大前由紀雄先生の開会の挨拶の後、最初に演題1「誤嚥性肺炎の予防と嚥下のリハビリテーション」について国立国際医療研究センターリハビリテーション科医長の藤谷順子先生の講演が行われた。続いて演題2「多職種協働口腔リハへの挑戦」について霞ヶ関南病院言語聴覚課課長の鈴木智子先生の講演が行われた。
当日は241名の参加があり、両先生の熱心な講演に会場も熱気に溢れた。

講演Ⅰ  「誤嚥性肺炎の予防と嚥下のリハビリテーション」
講師  国立国際医療研究センター リハビリテーション科医長
藤谷 順子先生

藤谷先生の講演では最初に、高齢者は誤嚥性肺炎をきっかけに、①死亡することも、②心不全をきたすことも、③嚥下機能が回復しないことも、④認知症が進むことも、⑤ADLが低下ことも、⑥在宅酸素になることもあり、⑦自宅に帰れなくなることがあることが述べられた。そのため誤嚥性肺炎の予防・再発防止は重要である。
高齢者の嚥下障害には2つのタイプがあり、脳卒中等の急性疾患で発症した明らかな嚥下障害と、もう一つは摂取量の低下があり、誤嚥性肺炎になってやっと気づかされるようなタイプである。
誤嚥性肺炎は一度の誤嚥によって起こることはまれで、①誤嚥の量が多いか少ないか、②誤嚥した内容物がきれいか汚いか(口腔内の不潔さの問題)、③防御機構(咳が出せるか、)④喀出力(痰を出す力)、⑤体力・免疫力が関係している。
肺炎につながる誤嚥には、①食事に伴う肺炎と②食事に伴わない肺炎がある。②の場合、不潔な唾液の誤嚥(口腔ケアの徹底が必要)や胃食道逆流による誤嚥、咽頭・喉頭の不潔に注意すべきである。
高齢者の嚥下障害のリスクは(図1)にあるような注意が必要である。

次に摂食・嚥下の5期について話された。

  • 先行期について ①食べ物であるということを理解しない人に食べさせると誤嚥する、②片麻痺の方は傾いたまま食べると誤嚥をしてしまう。また、食べ物の形がないこと、とろみの付いたまずいお茶、香りがない食べ物などは注意を要する。
  • 準備期について この時期は捕食ー咀嚼ー食塊形成をする時期なので餅を臼でつくのと同じように、歯だけではなく舌と頬の動きが大切(特に頬は内側へ引く力が大切)。口腔ケアの時も、うがいする力、呼気の力を強化するようにすることが大切である。
  • 口腔期について 舌等による食塊を送り込む時期なので、①口唇の閉鎖、②顎位の安定、③舌尖の固定、④舌収縮による奥舌の隆起が大切な要素になる。
  • 咽頭期について 感覚入力(食べ物が入ってきたという感覚)があり、延髄嚥下パタン中枢が働き、喉頭の前上方拳上により喉頭蓋が閉じ、食道入口が弛緩する動き。
  • 食道期について 重力と蠕動運動による食塊の胃への移送だが、高齢者の場合、胃食道逆流などにより肺炎を起こすので注意が必要である。

この5期は実際にはもっと複雑で、液体と固体の違い、凝集性、付着性(のどへの貼り付きやすさ)等、食物の特性を理解することが大切。とろみ付きの飲み物は飲み込みやすいのではなく、誤嚥しにくいだけということを理解する。

  • 嚥下と咀嚼について
    嚥下能力が高いことは様々な形態を嚥下可能ということで、高齢化に伴い、食べている途中で話しかけられたり、急いで食べると誤嚥する。咀嚼機能が低く、嚥下機能も低い高齢者には最初から食塊状の物を口に入れた方が安全である。
  • 誤嚥について
    多くの誤嚥は次の3つに分類できる。
    ①嚥下前の誤嚥→嚥下反射の前にさらっと流れ込んだものを誤嚥する。
    ②嚥下中の誤嚥→嚥下時に全量が食道に入らず、気道の閉鎖も遅れ、誤嚥する。
    ③嚥下後の誤嚥→残留物を後で吸い込む。
    ④大切なことは食塊の移動は「圧」が大切。圧を作るのは筋力、筋量なので癌などでやせた人が飲み込もうと思っても筋力がないので誤嚥しやすくなる。
  • 頸部・体幹機能の重要性
    喉頭拳上筋群は頸部前面筋群が重要な働きを持つのでHead Raising Exerciseが効果がある。
  • 感覚障害への注目
    口腔内知覚は大切で、口腔内が乾燥すると物の味がわからなくなる。口腔ケアを行うことは単に口をきれいにするだけでなく、口腔内知覚を取り戻すためにも重要である。咳反射は重要だが、仰向けに寝て咳をするにはかなりの体力を使う。痰を出す喀出力は腹筋、背筋力が大切である。
  • 高齢者の嚥下障害リスク
    加齢や疾患で飲み込みの障害が起こる。そのためご飯をおかゆに変えることによる栄養障害が起き、体力の低下になり、更に飲み込みの障害や喀出の障害が起こる。そして誤嚥性肺炎になり重症化する。
  • 肺炎発症・入院について
    臥床による体力・嚥下・喀出・認知の問題が起こる。酸素投与・口腔ケア不足による口腔不潔・口腔乾燥の問題が起こる。
  • 肺炎の患者に対する急性期からの呼吸リハ
    肺炎とリハビリが結びついてない人が多いが、急性期からのリハビリが大切。シルベスター法などで肋骨を動かし、肺に空気を入れることが重要である。
  • 誤嚥予防
    高齢者の場合、経口摂取禁を行うと口も廃用症候群になってしまうので口を動かす、口内への感覚入力が大切です。早めに咳反射改善を考えることが重要である。
  • 適切な形状の食事
    誤嚥性肺炎で入院された方は容易に嚥下できる形状の食事を十分取っていただくことにより、栄養改善につながり、肺炎予防につながる。しかし、この形状の食事は一時的なものであり、良くなったら普通食が食べられますよというコンセプトを告げることが大切である。嚥下調整食献立のポイントとして、少し難易度の高い物を出すことは認知症の改善のためにも必要である。のどに残っているものをゼリーのような喉越しの良いもので嚥下する交互嚥下も大切である。
  • 嚥下障害への対応:即効性
    図2にあるようなことが重要。1口食べたらもう一口食べたいと思う食事が大切である。
  • 嚥下障害への対応
    ゆっくり効果をねらうものとし、て口腔ケアの継続や顔面口腔・頸部筋力の筋肉強化・痰の喀出の改善が大切である。
  • 必要なのは本人への説明
    あなたの肺炎は嚥下機能の低下で起こっていることを説明する。喀出力・口腔ケア・栄養の説明も重要である
  • 認知症・ADL低下予防
    1)離床 2)整容・口腔ケア・排泄など自分でやることを増やす 3)可能なら経口摂取 4)歩行訓練を行うことにより歩行や散歩を行う。
  • 誤嚥性肺炎の包括的治療
    1)栄養サポート 2)呼吸ケア・呼吸リハ 3)肺炎治療 4)嚥下リハ 5)廃用症候群対策等を行い、スムーズな退院・退院後の改善の継続・再発予防が大切である。
  • 退院後療養生活もまた重要
    誤嚥性肺炎は、急性期病院・リハビリ病院を退院された後、かかりつけ医・ケアマネ・地域関係者の協力で安定・安心な生活が過ごせる。
  • 高齢者の肺炎は複合疾患
    肺炎予防・治療はチームアプローチなので、周りにいる人たちが協力して行うことが重要である。

藤谷先生のお話をお聞きして、学問的な豊富さもさることながら、先生の患者さんを思いやる心に感銘を受けた。

講演Ⅱ  「多職種協働口腔リハへの挑戦」
講師  医療法人真正会 霞ヶ関南病院 言語聴覚課課長
鈴木 智子先生

2つ目は、(医) 真正会霞ヶ関南病院の言語聴覚課課長の言語聴覚士(ST)である鈴木智子先生の講演、「多職種協働口腔リハへの挑戦」と言う演題であった。ふつうは診療科目である場合リハビリ科または言語聴覚科などと表示したり所属するのだそうだが、南病院ではユニットごとに多職種がまとまっている関係もあるので、科ではなく課にしたそうだ、そんなエピソードも交えて話していただいた。先生の話しは、非常に語尾もはっきりしゆっくりと分かりやすく、さすが言語の専門家と言う感銘を受けた。

まずは話の内容として、病院紹介から、理念は「老人にも明日がある」、医療の原点が福祉であり、チーム単位で多職種と組んでリハを行なっている、それは5つの形態があり、①入院リハを主として、他方で在宅リハとして、②外来、、③訪問、④通所、⑤介護予防・健康増進のリハサービスを提供している。
入院リハでは、1ユニットが40人を一つの単位として、ここに必要な職種を配している。医師を中心に看護師が最も多く、専任の歯科衛生士も一人必ず配置されているとのことであった。リハ病院の中で歯科衛生士がこれほど配属されているケースは稀ではないだろうか?
最も特徴的なことはユニフォームが全て一緒で垣根を取り払い、働く者の連帯感を出しているとのこと。毎年実施されている院内研修が必須で中途入職者も必ず受講する。院内研修では二人一組で自分の弁当・昼ご飯を目隠しして食事介助される事で、される患者の恐怖心や心配な気持を理解する事で自分と他職種の仕事の内容を再確認し、技術だけでなく口腔ケアやリハの重要性や口の機能と感覚について実践的な経験をするなどユニークな研修方法も目立った。

霞ヶ関南病院では胃瘻・NG患者の約8割は退院時に3食経口へ移行するという驚異的なリハビリ結果を生み出している。それは入院時の口腔の問題点を様々な視点から拾い出し、全病棟配属による病棟チーム制の下でリハビリに取り組むということが素晴らしい成果を上げている要因の一つであろう。入院中のリハビリについてはケアプラン策定の仕組みの実際と症例を中心に、評価からアセスメント、それに伴う職種の役割分担や、成果がどのようにでるかを図示していただいた。

入院リハでは、直接的または間接的な手法の提示をしながら、多職種協働の計画プラン作成をすること、実際の症例を提示しながら入院時の評価から評価結果を項目ごとに割り出し、アセスメントを各職種からきちんと引き出し、それを課題・目的・具体的なサービスをどう提供するかまで流れ図での解りやすい解説であった。
またリハビリテーション医療の流れは、太田仁史先生のチャート図を基に急性期から回復期・維持期、そして終末期に至るまでの流れで解説していただいた。専門職がどのような目標を設定しどうかかわるかという区分図など、チームワークの重要性とチーム医療に何が必要なのかを考えさせられる、素晴らしい講演であった。


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